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幼児教育の経済学

なぜ幼少期に積極的に教育すべきなのか?幼少期に適切な働きかけがないと、どうなるのか?早い時期からの教育で、人生がどう変わるのか?ノーベル賞学者が40年にわたって追跡調査。脳科学との融合でたどりついた衝撃の真実!

・5歳までの教育は、学力だけでなく健康にも影響する
・6歳時点の親の所得で学力に差がついている
・ふれあいが足りないと子の脳は萎縮する

子供の人生を豊かにし、効率性と公平性を同時に達成できる教育を、経済学の世界的権威が徹底的に議論する。(Amazon内容紹介)


 子供への教育投資はいつがよいのだろうか?

 その答えに対し、著者であるジェームズ・J・ヘックマン氏は「幼少期こそ、積極的に教育投資をするべきである」と述べている、そして本書は、そんな子育てに関する見解を”幼児教育の経済学”と題してまとめた本となる。

 まず、ヘックマン氏が幼少期の教育を重視する大きな理由の一つとして、ペリー就学前プロジェクトの結果を挙げている。ペリー就学前プロジェクトとは、経済的に恵まれない3歳から4歳のアフリカ系アメリカ人の子供たちを対象に、毎日平日の午前中は学校で教育を施し、週に一度午後に先生が家庭訪問をして指導にあたるというものだ。この就学前教育は、2年間ほど続けられた。そして就学前教育の終了後、この実験の被験者となった子供たちと、就学前教育を受けなかった同じような経済的境遇にある子供たちとの間では、その後の経済状況や生活の質にどのような違いが起きるのかについて、約40年間にわたって追跡調査が行われた。

 その結果、10歳の時点では、就学前教育を受けたグループと受けなかったグループの間には、IQの差は観察されなかった。しかし、40歳になった時点で比較した所、就学前の教育の介入を受けたグループは比較対象グループと比べて、高校卒業率や持ち家率、平均所得が高く、また婚外子を持つ比率や生活保護受給率、逮捕者率が低いという結果が出たのである。

 また、就学前教育を受けた子供たちの間で顕著だったのは、学習意欲の伸びだった。その一方、子供たちのIQを高める効果は、小さい事が明らかとなった。高所得を得たり、社会的に成功したりするには、IQなどの認知能力と、学習意欲や労働意欲、努力や忍耐などの非認知能力の両方が必要になるが、ペリー就学前プロジェクトは、子供たちの非認知能力を高める事に貢献したことを意味したのである。
非認知能力とは、IQで測れない力、例えば、学習意欲や努力、忍耐といった力がこれにあたり、その反対に、数が分かったり字が読めるといったIQなどで測れる力が”認知能力”と呼ばれるものとなる。

 こうしたヘックマン氏の意見に対し、教育界の権威者からは、”ペリー就学前プロジェクトはサンプル人数が少ない”、”親への教育こそ大切”、”幼少期の教育的介入には否定的な報告もある”といった意見も挙がっているが、幼児教育の重要性について一石を投じた彼の主張は、やはり大いに注目するべきものがあるだろう。

 子育てに興味のある方、是非読んでみてはどうだろうか。