NOVEL
家族八景
幸か不幸か生まれながらのテレパシーをもって、目の前の人の心をすべて読みとってしまう可愛いお手伝いさんの七瀬――彼女は転々として移り住む八軒の住人の心にふと忍び寄ってマイホームの虚偽を抉り出す。人間心理の深層に容赦なく光を当て、平凡な日常生活を営む小市民の猥雑な心の裏面を、コミカルな筆致で、ペーソスにまで昇華させた、恐ろしくも哀しい本である。(著者:筒井康隆)
小説の主人公・七瀬は生まれつき備わった能力・テレパシーを備え、家政婦として働いている。そんな七瀬が訪れる訪問先は、表面上は穏やかでも、心の内面ではお互いをいがみ合い、嫉妬や欲望、醜悪さが入り乱れた家庭が多く、人間の浅ましくも醜い心理的状況を如実に描き出している。
元来、人の本性は荀子が唱えるところの「性悪説」と孟子が唱える「性善説」があるとされるが、本書をその説に当てはめるなら、まさに性悪説にフォーカスを当てた作品であると言えるだろう。
人間の心の闇に興味がある方は、ぜひ一度読んでみてはどうだろうか。