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メタバースとWeb3(著者:國光 宏尚)

2022年のいま、世界のマーケットで既存のサービスにとってかわる「ゲームチェンジ」が起きています。このムーブメントに乗り遅れないために知っておかなければならないのが「メタバース」と「Web3」です。驚異的な勢いでビジネス化が進むメタバース、話題のNFTや今後注目されるDAOにWeb3がどう絡んでいるのか? グローバル化、デジタル化という世界の変化に乗り遅れてきた日本企業、そして一個人がチャンスを掴める時代がいよいよやってきます。今後、世界で起きる大きな変化である「バーチャルファースト」への移行。本書ではいま知るべきことは何か、これから世界はどこに向かっていくのか、そして時代の波に乗るためのビジネスチャンスのヒントを、長年VRとブロックチェーンの領域でビジネスを手がけてきた著者が解説する、メタバースとWeb3の決定版。(Amazon内容紹介)

2021年の10月28日、Facebook社が「meta」へ社名変更したが、それ以来、Web3、NFT、DAOといったIT用語をメディアでよく耳にするようになった。そんな事もあり、今回紹介する「メタバースとWeb3」という本を読んでみたのだが、この”メタバース”と呼ばれるバズワードが単なる一過性のムーブメントではない事について詳しく述べている。

まず、筆者はメタバースを「VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)、XR、ミラー・ワールドのリブランディング」のリブランディングと定義しているが、これらの各用語を下記のように説明している。

・VR(Virtual Reality):仮想現実
日本語で「仮想現実」と翻訳されているように、コンピューターグラフィックスなどのテクノロジーによってメタバースを作り出せるのが特徴。VRの世界に入るには、Oculusをはじめとするヘッドマウントディスプレイや専用ゴーグルを装着する必要がある。装着後、目の前に映像が映し出されることに加え、その中でユーザーは自由に動き回り、没入感を体験しながら別世界で活動することができる。

・AR(Augmented Reality):拡張現実
VRがメタバースを作り出すのに対し、ARは現実を拡張させる(拡張現実)のが特徴。具体的には、現実世界のさまざまな情報に対し、コンピューターで作り上げた画像や情報を重ねるようにして、目の前の世界を拡張させていく。わかりやすい例でいえば、特定の紙や画像にスマートフォンをかざすと、追加の情報(キャラクターやテキストなど)が浮き上がって見えるような技術が挙げられる。

・MR(Mixed Reality):複合現実
ARの技術をさらに発展させたのがMR(複合現実)。ARが現実世界を拡張しているのに対し、MRでは、あたかも現実世界にデジタル映像が存在するかのように投影することができる。代表的な事例としては、マイクロソフト社の「Microsoft HoloLens」が挙げられる。これは、現実空間に現れたホログラムの3D映像を見ることができるのに加えて、手や体の動きを通じて実際に操作できるのが特徴。

こうした技術は、まだ私たちの生活に深く浸透してきているとまでは言えない。だが、2020年にOculusQuest2(バーチャル・リアリティヘッドセット)だけでも1000万台程度販売されており、アップル社もVRもARも対応したヘッドセットの発売を予定している。中国ではTikTokの親会社バイトダンスが、Pico(ピコ)というVRヘッドセットメーカーを800億円で買収したり、中国の映像配信企業アイチーイーが、4K解像度の新型一体型VRヘッドセット「Qiyu 2S」をリリースするといった動きが取られている。

また、語学、化学、歴史、数学といった教育の分野では、紙で見せるよりもVRで見せた方が圧倒的にわかりやすくなると考えられる。教育現場でタブレットはマストハブになってきているが、同じくVRがそうなっていけばユーザー側もVRに慣れていく可能性が高い。さらに、ポストスマホとしては、ARグラスの分野になると考えられている。ARグラスの現在地としては、アップル社が2022年後半から23年前半に初期型のARグラスをリリースする計画があり、メタ社も現在開発中で同じく2022年後半、グーグル社も2024年にリリースを予定している。これらは日常的に着用できるモデルになると予想され、通話やバーチャル会議ができたり、スマホを触らずに情報を引き出せたりできるという機能が期待されている。

以上がメターバースが今後広がりをみせるとされる予測だが、メターバース以外にも
NFT(Non-Fungible Token)):代替不可能なトークン)
DAO(Decentralized Autonomous Organization):自律分散型組織)
といったWeb3(仮想通貨、暗号資産、ブロックチェーン、クリプトなどをリブランディングしたもの)がインターネットの次の大きなムーブメントになるであろう理由についても詳しく解説されている。メタバース、Web3について興味のある方は是非一読してみるといいだろう。

「資本主義」を革命的に書き換える「お金2.0」とは何か。2.0のサービスは、概念そのものを作り出そうとするものが多いので、既存の金融知識が豊富な人ほど理解に苦しみます。その典型がビットコインです。あまりにも既存社会の常識とは違うので「今の経済」のメインストリームにいる人たちにとっては懐疑や不安の対象になりやすいといった特徴もあります。そして、それこそが全く新しいパラダイムであることの証でもあります。本書ではまずお金や経済の仕組みから、テクノロジーの進化によって生まれた「新しい経済」のカタチ、最後に私たちの生活がいかに変わるか、の順番に解体していきます。(著者:佐藤航陽)

 仮想通貨・フィンテック・シェアリングエコノミー等々、現在、お金に変わる資本やサービスが次々と生み出されている。その為であろうか、まだまだ実体としてのお金は強い影響力を保ち続けているとはいえ、近年その相対的な価値は徐々に力を持ち得なくなっているように見える。

 本書は、そんな流動性の激しい時代で、そもそもお金とは一体何か…テクノロジーはお金をどのように変えていくのか…お金に変わる価値とは一体何か…といった、お金の未来と新しい経済のカタチを私たちに掲示してくれる。そして、そんな著書の項目の中でも、「資本主義」から「価値主義」という新たな価値体系への変換の提唱は大変興味深い。

 これは、限界を露呈し始めた資本主義に変わる社会から、お金などの資本に変換される前の”価値”を中心としたら社会(いわゆる価値主義)に世界が変わっていくというものだ。ここでいう価値とは、経済的な実用性、人間の精神にとっての効用、例えば、興奮・好意・共感といった、社会全体にとってポジティブな普遍性を持つ全てのものである。

 今後、AIなどのテクノロジーが急速に発達していくと、大半の労働は価値を失っていく可能性があり、そうなると大半の人が失業してしまうことになる。その時、生活するための必要最低限の生活コストを国民全員に支給するため、ベーシックインカムを導入する仕組みが整えられていく可能性も十分に考えられる。しかし、そうした保障によって働かなくても生きていけるという状態を全員が享受できるようになってしまった場合、お金を稼ぐ能力は今ほど重要でなくなってくる。そして、そうした状況に直面した時、非実体的な”価値”こそが、お金に変わる大きな価値となり、私たちの社会を大きく変えるだろうと述べる。

 お金の将来像について考えてみたい方は、是非一度読んでみてはどうだろうか。

ここ数十年間、わたしは何千もの人々に、貧困、人口、教育、エネルギーなど世界にまつわる数多くの質問をしてきた医学生、大学教授、科学者、企業の役員、ジャーナリスト、政治家―ほとんどみんなが間違えた。みんなが同じ勘違いをしている。本書は、事実に基づく世界の見方を教え、とんでもない勘違いを観察し、学んだことをまとめた一冊だ。(著者:ハンス・ロスリング , オーラ・ロスリング , アンナ・ロスリング・ロンランド, 訳:上杉 周作 , 関 美和)


 本書タイトルのFACTFULNESS(ファクトフルネス)とは、”データや事実にもとづき、世界を読み解く習慣”を意味している。そして、まずは世界の基本的な事実を知ってもらう為、以下のようなクイズを出題しているので、その一部を紹介してみたい。

質問1 世界の人口のうち、極度の貧困にある人の割合は、過去20年でどう変わったでしょう? 
A 約2倍になった B あまり変わっていない C 半分になった

質問2 世界中の1歳児の中で、なんらかの病気に対して予防接種を受けている子供はどのくらいいるでしょう? 
A 20% B 50% C 80%

質問3 世界中の30歳男性は、平均10年間の学校教育を受けています。同じ年の女性は何年間学校教育を受けているでしょう? 
A 9年 B 6年 C 3年

質問4 15歳未満の子供は、現在世界に約20億人います。国連の予測によると、2100年に子供の数は約何人になるでしょう? 
A 40億人 B 30億人 C 20億人


 では、答えを見てみよう。

質問1 C(半分になった)、質問2 C(80% )、質問3 A(9年 )
質問4 C(20億人 )

 
 この本の著者たちは、こうした世界の情勢に基づく質問を世界の国々で行なった所、なんとその正解率は3分の1以下であったと報告している。しかも、こうしたクイズを大学教授、ジャーナリスト、ノーベル賞受賞者といった様々な分野で活躍する人々にも行なったが、いずれも大多数の者たちがほとんどの質問に間違っていたそうだ。

 では、なぜ多くの者たちが間違ってしまうのか…。

 その背景には、まず第一に、人々の圧倒的な知識不足や昔の知識が現在の知識にアップデートされてないといった理由が考えられるだろう。しかし、それ以上に著者たちは、人々にはドラマチックすぎる世界の見方をしてしまう傾向がある事を、その理由の大きな原因の一つとして挙げている。

 このドラマチックすぎる世界の見方とは、例えば、「世界には戦争、暴力、自然災害、人災、腐敗が絶えず、どんどん物騒になっている。金持ちはより一層金持ちになり、貧乏人はより一層貧乏になり、貧困は増え続ける一方だ。何もしなければ天然資源ももうすぐ尽きてしまう…」といったネガティブな考え方だ。

 しかし、この考え方は正しくない。

 事実に基づく世界の見方をする限り、時を重ねるにつれ、世界は徐々に良くなっている。何もかもが毎年改善するわけではないが、人類は大いなる進歩を遂げている。

 本書は、冒頭で紹介したようなデータと事実に基づく世界の見方を私たちに提供し、人々の考え方を変え、根拠のない恐怖を退治し、誰もがより生産的なことに情熱を傾けられるような構成に仕上がっている。

 世界をドラマチックすぎる味方ではなく、事実に基づいた見方で思考してみたい方は、是非一読してみてはどうだろうか?

堀江貴文さん推薦!飲食店開業や起業を夢見るサラリーマンは大勢いる。だが、その先には「地獄」が待っている──。飲食・宿泊業の廃業率は20%で全業種トップ、日本で起業して10年後に残っている会社はわずか5%。それより、会社を買って社長になろう。国内企業の約66%が後継者難。株式1円で買える好業績優良中小企業もゴロゴロ。キャリアを生かして社長として活躍、最後は売り抜ける。人生を変える明るい資本家講座!(著者:著者:三戸 政和)

 この本の紹介を初めて友人から受けた時「たいそう大きな夢を掲げるんだなあ」と他人事のように思っていたが、他の友人からもまた別の日に同じ本を勧められ、「会社を買うって今やわりと一般的な考え方なのかな」と思い読んでみた。

 内容としては、今後大廃業時代を迎えるであろう時に備え、小さな会社を買って経営するメリットを書いた本、というのが一番の印象だ。本書のタイトルを読んだ方の多くは「会社を買うなんて、そんなリスクの高い買い物なんて怖くてできない」という反応をするかと思う。ただ、これについてよくよく考えると、終身雇用がなくなり、年金も貰えるか分からないような現代では、そもそも何もしないという事自体がリスクであり、同じリスクを抱えるなら、会社を一つ買って資本家となり、しかもあなたの手腕でその会社を蘇らせれば、社会にとって非常に意義ある事である。しかも、会社を買って経営するのは、0を1にする起業に比べ圧倒的に難易度が低い。

 会社経営を今後の人生の選択肢の一つとして検討したい方にオススメしたい本です。

世界の名門ビジネススクール、ハーバード、スタンフォード、MIT、LBS…が教える、あらゆるムダと時間を削ぎ落とし、成果を最大化Maximizeする方法。山積みの課題、複雑なプロジェクト、利益の対立…すべては、とことん「単純」に解決する。(著者:ドナルド サル, キャスリーン アイゼンハート, 翻訳:戸塚 隆将 )


 深く考えすぎていて答えが出ない時、スッと思考の回路を緩めてあげた瞬間に「どうしてこんな簡単な事に気付かなかったんだ」という経験をした事がある。こうした体験は、何も私だけに限った事ではないだろう。本書のシンプル・ルールは、あらゆる状況を考慮に入れ複雑化した物事を、一度単純化してみる事によって、従来のパフォーマンスを飛躍的に高める手法が述べられている。

 ここではいくつかそのシンプルルールを紹介してみたい。

 ミシガン大学教授のレスリー・パーロウ氏が、レーザープリンタの開発チームを対象に研究を行なっていた時 当時そのチームは新型レーザープリンタの開発にとりかかっていた。ところが、四年の予定だった開発期間が突然大幅に短縮され、九ヶ月となってしまった。エンジニアたちは共同作業もするが、単独作業にも多くの時間を割く。スケジュール変更後、彼らは休日返上で仕事をしていたが、しだいにストレスがたまり、モチベーションもみるみる低下していった。中には自分ひとりでする仕事を優先する者も出てきて、開発チームの仕事は崩壊寸前の状態にまでおちいっていった。 そこでパーロウ教授は、開発チームにルールをつくってみたらどうかと提案し、チームワークをとりつつも、個人の作業にも時間をあてられる、一挙両得のルールを作りあげてみた。

1 火曜、木曜、金曜の午前中は単独作業を行なう
2 ほかの時間は共同作業を行なう


 このルールを実行してから、エンジニアたちの作業能率はみるみるうちに上がり、厳しいスケジュールにもかかわらず、新型レーザープリンタを予定どおりに発売できたのである。 これは、パーロウ教授がこれまで悪循環に嵌りこんだ企業を数多く見てきた経験によって導き出したシンプルルールであり、そこには複雑なルールなど一切ない。

 また、今や世界最大手の動画配信会社としてグローバルな事業展開を続けている”ネットフリックス”の社内規則を見てみると、その規則は驚く程シンプルだ。

人事ポリシー
・社内に悪い影響を及ぼす人を雇わないように注力する
・採用ミスに気づいたら、速やかに解雇する
経費、接待費、贈答費、出張費に関する規則
・会社にとって最善の利益を考えた行動をする


 こうしたわずかしかないルールをみると、今ひとつ頼りないと思う人がいるかもしれないが、ネットフリックスの人事担当者はこうした考えに対しこのような文言を放っている。

97%の社員は、信頼に値する人物だ。残り3%の社員の問題に対処するために、膨大な時間をかけて就業規則を作成している企業は驚くほど多い」と。


 本書では、こうしたシンプルルール以外にも、コーディングルール・タイミングルール・ハウツールールなど、幾多の役に立つルールを取り上げている。さらに、こうしたルールは人間社会からの知恵のみを拝借しているのではなく、時には自然界からそのアイデアを得ているので非常に面白い。シンプルルールの魔力について詳しく知りたい方にとてもおすすめです。



これまでのような「分析」「論理」「理性」に軸足をおいた経営、いわば「サイエンス重視の意思決定」では、今日のように複雑で不安定な世界においてビジネスの舵取りをすることはできない――「直感」と「感性」の時代――組織開発・リーダー育成を専門とするコーン・フェリー・ヘイグループのパートナーによる、複雑化・不安定化したビジネス社会で勝つための画期的論考!
(著者:山口周)


 「直感、芸術、感覚、etc…。これら感性に近しいものはビジネスにおいて有用でありうるのか?」と言われると、その回答に困る方は多いだろう。なぜなら、そうした要素は抽象的かつ曖昧で、論理的な説明が非常に難しいと思われるからだ。その為、倫理や理性に頼った意思決定こそ大切である、というのが世間一般の主流な考え方だと思っている。しかし、多くの人が分析的・論理的な情報処理のスキルを身につけるという事は「他人と同じ正解を出す」ということでもあり、それは必然的に「差別化の消失」を招く原因になりかねない、と著者は指摘する。

 本書は、そんな「正解のコモディティ化」が飽和状態に達した今だからこそ、美意識による役割の重要性を唱えている。

 例えば、

・システムの変化に法律の整備が追いつかないという現在のような状況だからこそ、明文化された法律だけを拠り所にせず、自分なりの「真・善・美」の感覚(美意識)に照らして判断する態度

・論理や理性で考えてもシロクロのつかない問題については、「直感」を頼りにした方が良く、結果的にそちらの方が大きな業績の向上につながっている事実

・マツダのデザインがグローバル市場において尊敬を勝ち取ったのは、「顧客に好まれるデザイン」ではなく「顧客を魅了するデザイン」という思考アプローチ

など

 また、「美意識」における科学的研究成果としても、2001年にエール大学の研究者グループは、アートを見ることによって観察力が向上することを証明しており、「米国医師会報」には、医大生に対して、アートを用いた視覚トレーニングを実施したところ、皮膚科の疾病に関する診断能力が56%も向上したと報告している。

 さらに、ミシガン州立大学の研究チームでは、ノーベル賞受賞者、ロイヤルアカデミーの科学者、ナショナルソサエティの科学者、一般科学者、一般人の五つのグループに対して、「絵画や楽器演奏等の芸術的趣味の有無」について調査したところ、ノーベル賞受賞者のグループは、他のグループと比較した場合、際立って「芸術的趣味を持っている確率が高い」ことが明らかとなっている。これは、一般人と比較した場合、2.8倍も芸術的趣味を保有している確率が高いという結果である。

 このように見ると、確かにアートや芸術といった「美意識」は、ロジックが煮詰まり情報の移り変わりが激しい現代において見直されるべき価値ではないか、と感じるのは私だけではないだろう。ビジネスにおける「感性」の必要性を、論理的に突き詰めたい方におすすめです!

1962年晩秋、24歳のあるアメリカ人が日本に降り立った。彼の名はフィル・ナイト。のちに世界最強のブランドの一つとなる、ナイキの創業経営者だ。オニツカという会社がつくるシューズ「タイガー」に惚れ込んでいた彼は、神戸にあるオニツカのオフィスを訪れ、役員たちに売り込みをする。自分に、タイガーをアメリカで売らせてほしいと。スタンフォード大MBA卒のエリートでありながら、なぜあえて靴のビジネスを選んだのか?しかもかつての敵国、日本の企業と組んでまで。「日本のシューズをアメリカで売る」。人生を賭けた挑戦が、このとき始まった!
(著者:フィル・ナイト 翻訳:大田黒 奉之)

 本書はナイキの創業者、フィル・ナイト氏が書き下ろした伝記本である。この本を読むまで私は、ナイキは日本に所縁のある会社なんだよなあ、ぐらいの知識しかなかったが、なあなあ程度ではなく非常に所縁のある会社である事にまず驚かされた。

 ナイキの創業者、フィル・ナイト氏はオレゴン出身の陸上競技選手から会計士となり、その後ナイキの前身であるブルーリボンを本職と並行して立ち上げるが、その先の人生は波乱に満ちており、幾重にも重なる倒産危機・裁判・盟友の死など、フィクション以上の苦難が彼を待ち構える。しかし、そんな逆境を猪突猛進に駆け抜けナイキという一大ブランドを築き上げたストーリーはまさに目を見張るものがあり、”ビジネスとは、金を稼ぐことではない”という彼の格言が余計心に響く。

 また、彼は私たち20代に向けてこのようなメッセージを放つ。

20代半ばの若者たちに言いたいのは、仕事や志す道を決めつけるなということだ。天職を追い求めてほしい。天職とはどういうものかわからずとも、探すのだ。天職を追い求めることによって、疲労にも耐えられ、失意をも燃料とし、これまで感じられなかった高揚感を得られる。

 
 こうした伝記ものは読んでいるだけで非常に面白いが、そんな彼らの起業家精神から学べる事も多分にあるので非常に為になる。日本語訳も非常に素晴らしいので、是非多くの方に読んでもらいたいと思う一冊であった。

 哲学というと「実世界では使えない教養」と捉えられてきたが、それは誤解。実際は、ビジネスパーソンが「クリティカルシンキング」つまり現状のシステムへの批判精神を持つために、重要な示唆をくれる学問である。本書では、“無知の知”“ロゴス・エトス・パトス”“悪の陳腐さ”“反脆弱性”など50のコンセプトを、ビジネスパーソン向けの新しい視点で解説。現役で活躍する経営コンサルだから書けた「哲学の使い方」がわかる1冊。(著者:山口周)

    私は哲学という学問がわりかし好きで、哲学関連の図書を読むのが好きなのだが、周りにそんなことを話すと決まって言われることがある。それは「時間の無駄」「役に立たない」といった否定の返事の数々である。なので私は、その有用性を訴えようと試みるのだが、何せ抽象的な考えを言語化するのは非常に難しく、なかなかうまく説明できない。(なので近々、これについてエッセイで考えをまとめてみたいと思ってる)。

    そんな経緯もあり、ふと立ち寄った書店の店頭に今回紹介する図書が置いてあったので読んでみると、先ほど私が挙げた悩みを一気に解消してくれるほど明快な説明がされており、これがなかなかに面白い。

    著者は、本書の中で哲学を学ぶ重要性について述べているのは勿論だが、自身が現役コンサルタントである立場から、その哲学的思考はビジネスの場においても非常に有用であるとして、哲学者のキーコンセプトを引き合いにだし解説している。

    例えばその一例として、人類学者のレヴィ・ストロースが唱えた「ブリコラージュ」という概念を紹介しているが、ブリコラージュとは、本来フランス語で「寄せ集めの素材で何かを作る」ことを意味する言葉だが、ここで引用される所での意味は「何の役に立つかよくわからないけど、なんかある気がする」というグレーゾーンの直感だ。

    この概念は、レヴィ・ストロースが南米のマト・グロッソの先住民達を研究し、彼らがジャングルの中を歩いていて何かを見つけると、その時点では何の役に立つかわからないけれども、「これはいつか何かの役に立つかも知れない」と考えており、実際に拾った「よくわからないもの」が、後でコミュニティの危機を救うことになったりすることがあるため、この「後で役に立つかも知れない」という予測の能力がコミュニティの存続に非常に重要な影響を与えると考えたことが由来となっている。

    実際にこの思考が役に立った一例として、著書では「アポロ計画」を取り上げている。アポロ計画は、少し引いて考えてみると、それは「月に行こう!」という計画で、一体それが何の役に立つのか全くわからないプロジェクトである。しかし、アポロ計画のような長期宇宙飛行においての必要性から生じた技術である集中治療室=ICU(Intensive Care Unit)は、患者の身体に、生命に影響を及ぼすような変化が起こったらすぐにそれを遠隔で医師や看護師に知らせるというシステムで、宇宙飛行士の生命や身体の状況を遠隔地からモニターして、何か重大な変化が起これば即座に対応するという仕組みは、アポロ計画がなければ実現できなかったか、あるいは実現が大幅に遅れていたであろう技術であり、今日の医学に多大な貢献をもたらしている。

    その他にも、ライト兄弟が開発した動力飛行や、エジソンが発明した蓄音機など、彼らが当初想定していた用途とは全く異なる領域で発展していることを引き合いに出し、「ブリコラージュ」という哲学的思考法を展開しているが、そのような事例を出し、勿論用途市場を明確化することも大切だが、世界を変えるようなイノベーションは「何となく、これはすごい気がする」という直感に導かれて実現していることを忘れてはならないとして締めている。

    こうした哲学的コンセプトの考え方と使い方を、本書のテーマ「武器になる哲学ー人生を生き抜くための哲学・思想のキーコンセプト50ー」とあるように、その数50収録されているが、このように事例を踏まえた解説をされると、「確かに哲学って有用で実用的な武器なんだなあ」と思ってしまうのは私だけではないだろう。

    哲学がビジネスに於いて、どのような役に立つのか最知りたい方は、是非一度手にとって読んでみてはどうだろうか?

 1日1ページ5分読むだけで1年後、世界基準の知性が身につく! (月)歴史・(火)文学・(水)芸術・(木)科学・(金)音楽・(土)哲学・(日)宗教の7分野から、頭脳を刺激し、教養を高める知識を365日分収録! すべての知的好奇心の探究者へおくる本。(著者:デイヴィッド・S・キダー、ノア・D・オッペンハイム 翻訳:小林朋則)

    内容紹介にもある通り、本書は教養を高めるための語句の解説がズラッと365日分書いてあり、そのワードは黄金比・失楽園・虹・ヘーゲルといった、一度はどこかで聞いたことがある、だけど説明はできない…といったような教養として身につけるべき幅広い分野の語句を詳細に解説している。

    例えばその例として、 月曜日の歴史では「ハンムラビ法典」を挙げているが、解説を始める前に以下のような序文でその語句についての概要を述べている。

    ハンムラビは、現在のイラクにあった古代文明バビロニアの王である。紀元前1792年から前1750年まで君臨し、対立する諸民族を征服したが、彼が何より有名なのは、史上はじめて法律を制定した人物だからだ。治世の終わり近くにハンムラビは、現存する史上最古級の成文法を発布し、国民が守るべき規則と、法を破った者が受ける罰を明確にした。ハンムラビの時代、ほとんどの社会は独裁的な支配者が好き勝手に支配していたため、法律がすべての人に適用されるという発想自体が、前代未聞の新機軸だった。

    その後、序文を受けて下記のような解説をしている。

    (略)ただし、法典そのものは現代の感覚から見ると非常に残酷だった。ハンムラビは、些細な法律違反でさえも死刑と定めていた。居酒屋に入った女、逃亡奴隷をかくまった者、「正当な理由」なく夫の元を去った妻は、すべて死刑の対象だった。さらに、この太古の法典は、古代社会の迷信も反映していた。バビロニア人どうしの争いについて、ハンムラビ法典は被告に川へ飛び込めと命じている。もし有罪なら溺死する。だが無実なら「無事に逃れ」、原告は虚偽の告発をしたかどで死刑に処すと決められていた。
    (略)碑文でハンムラビは、「将来の全世代の人々」にこの法律を順守するよう命じ、「私が与えた国法を変える」ことを禁じている。また、将来の王たちは一時の感情に従って統治するのではなく、法の支配を守らなくてはならないとも述べている。国民を支配する法律を為政者が勝手に変えてはならないという考えは、革命的な発想だった。(略)

    内容は若干西洋寄りになっているものの、知識を深めるには十分お勧めできる図書なので、世界の教養を高めたい方は是非読んでみてはいかがだろうか?(葛飾北斎が紹介されていたのには驚いた!)。

AI、ブロックチェーンなどテクノロジーの進化、少子高齢化、人口減少などにより、世界と日本が大きく変わりつつある。今後、世界の中で日本が再興するにはどんな戦略が必要なのか。テクノロジー、政治、経済、外交、教育、リーダーなどの切り口から日本と日本人のグランドデザインを描く。(著者:落合陽一)

    今、日本で最も注目されているだろう若きメディアアーティスト兼実業家(肩書きが多すぎてよくわからん)の落合陽一氏が今後の日本の行く末を四方八方から切り込んだ内容が本書になる。テレビで落合氏をみると、一風変わった人に見えてしまうが、本書の中身はそのギャップに驚かされるぐらい分かりやすく洗練されている。    著者は、日本をアップデートする手段として、地方自治体によるICOの可能性・MBAよりもアート・機械化自衛軍、といった独自の視点から見たテーマを掲げ論じているが、それ以外にも、日本とは何か・欧米とは何か・政治、教育など、視点をマクロにまで広げ独自の見解を述べている。

    また、本書で著者は、自身のフィールドである未来のテクノロジー分野についても触れているが、中でも2020年に世界の先駆けとして東京で始まる次世代通信システムの5G(第5世代移動通信システム)の可能性について書かれた箇所はなかなかに面白い。
    著者が言うには、5Gになると、たった1ミリ秒の遅れで情報通信できるようになり、これは人間の入出力感覚で遅れを体感しないレベルだそうだ。それにより、今までは遅延があると危険で不快に感じていた領域(自動運転・コミュニケーション・医療ロボットなど)でもテクノロジーを活用できるようになり、自動運転を利用した田舎から都心への通勤・3次元中継・触覚伝達による遠隔介護が実現できる可能性について述べている。

    その他にも、テクノロジーに限らず多彩な叙述で論を展開しているが、最後にこのようなメッセージを読者に残している。

    「ポジションを取れ。批評家になるな。フェアに向き合え。手を動かせ。金を稼げ。画一的な基準を持つな。複雑なものや時間をかけないと成し得ないことに自分なりの価値を見出して愛でろ。あらゆることにトキメキながら、あらゆるものに絶望して期待せずに生きろ。明日と明後日で考える基準を変え続けろ」

    日進月歩変貌する時代の中、日本という国の描き方を知りたい方にお薦めです。