LIFE ACADEMIC

KNOWLEDGE

銃・病原菌・鉄

五つの大陸でなぜ人は異なる発展をとげたのか。世界の富と力ははぜ現在のように偏在するようになったのか。人類の歴史を動かしてきたものを、歴史学や考古学のみならず、分子生物学、進化生物学から地理学、文化人類学、言語学、宗教学等多様な学問領域の最新の知見を縦横に駆使することで明らかにする。まったく新しい人類史像が立ち上がってくる知的興奮の書。ピュリッツァー賞、コスモス国際賞受賞のほか、朝日新聞による「ゼロ年代の50冊」の第1位に選ばれている。(著者:ジャレド・ダイアモンド 翻訳:倉骨彰)


 本書は著者、ジャレド・ダイアモンド氏が長年に渡るフィールドワークで培った知識をもとにして人類史の謎に迫った本である。その内容項目としては、なぜ一部の人種が優位にたったのか・毒のないアーモンドの作り方・家畜がくれた死の贈り物など様々で、多様な学問領域から人類史における歴史について考察している。

 中でも読んでいて非常に興味深いと感じたテーマが二つある。一つはインカ帝国滅亡における経緯で、これはインカ帝国の皇帝であるアタワルパの約4万人にも及ぶ軍勢が、スペインからたった168人の兵士を引き連れてやってきたピサロの軍勢に敗北して捕虜となってしまった理由についてである。常識的に考えると、4万の軍勢が168人の小勢に負けるなど考えられない話であるが、文字の読み書き能力・銃器の使用・馬の所有など、大陸間による文明発展の差異に着目するとその理由が大きく見えてくる。

 もう一つは征服戦争における病原菌の役割で、ここでいう病原菌とは家畜から人間に移った菌の事をさす。天然痘、麻疹、インフルエンザなどの伝染病は、人間だけが羅漢する病原菌によって引き起こされるが、これらの病原菌は動物に感染した病原菌の突然変異種で、家畜を持った人々は、新しく生まれた病原菌の最初の犠牲者となったものの、時間の経過とともに、これらの病原菌に対する抵抗力を次第に身につけるようになる。すでに免疫を有する人々がそれらの病原菌に全くさらされた事のなかった人々と接触した時、ひどい時には後者の九十九%が疫病で死亡する為、先住民を征服する上で決定的な役割を果たした、という指摘には、なるほど、と思わされた。

人類史の形成・発展・謎に興味のある方に非常におすすめしたい会心の一冊である。