LIFE ACADEMIC

ESSAY

天才の条件とは何か?(後編)

 前回、天才の条件とは何か?(中編)で、天才の第一条件、第二条件に当てはまる人物(ノイマンとガロア)を紹介してきた。今回の後編では、前編で定義づけた第三条件に当てはまる人物を紹介していく事にする。

 では早速、天才の第三条件を確認しよう。

天才の第三条件:世界の常識・概念を覆すような発見、もしくは後世に長く語り継がれるような金字塔を打ち立てた者


 第三条件は、“才能ある者”がどれだけ社会に大きなインパクトを与えたか”という業績に焦点を当て選んだが、その条件に当てはまる人物を、ここではアルベルト・アインシュタインに定めたい。

アルベルト・アインシュタイン

 ドイツ生まれの理論物理学者であるアインシュタインは、チューリヒ連邦工科大学を卒業後、研究職のポストを得ることができずベルンの特許庁に勤めていたが、「奇跡の年」と言われる1905年、特殊相対性理論など、その後の科学界に大きな影響を与えた3つの理論を次々に発表、そしてその10年後には一般相対性理論を発表した。相対性理論は質量とエネルギーは変換可能である、重力によって光が曲がる、といった当時の常識を超えた予測を導き出し、近年においても重力波の検出やブラックホールの観測などによって現在に至るまでその正しさが証明され続けてきた。

 特殊相対性理論は以前からすでに確立されていたたった2つの原理から導かれた。1つ目はガリレオの相対性原理を拡張した、「物理法則は絶対的である」、すなわちどの観測者に対してもすべての物理法則が等しく成立するという原理であり、2つ目はマクスウェルの電磁気学で示される「光速度は絶対的である」、すなわちどの観測者にとっても光は同じ速度で進むという原理である。

 ニュートン以来信じられてきた絶対空間・絶対時間の想定のもとでは矛盾せざるを得ないこの2つの原理を、空間・時間が「相対的」すなわち観測者によって異なるものであるとし、それらが相互に関連する時空間という概念を創り出すことによって両立させたのである。マイケルソン・モーリーの実験といった数々の最新の実験結果が当時の物理学者たちの目前に提示されていたものの、光は波であるにも関わらずその伝播を媒介する物質「エーテル」は存在しないという事実を受け入れ、さらに空間と時間がそれぞれ独立して存在するのではなく関連していると考えることができたのはこの時点でただ一人アインシュタインのみであった。カントが示したように、我々が空間・時間という知覚の形式を足場にしてはじめてさまざまな事物を自分の「対象」として捉えられるのであるから、我々の思考の習慣と真っ向から対立するこの認識の跳躍がいかに困難なことであったかは明らかである。

 それに対して一般相対性理論についてはアインシュタインの独創性の要因が強い。重力の効果を打ち消す等価原理はアインシュタイン生涯最高の発想とされており、非ユークリッド的な領域における物理学についてはアインシュタインでさえ習得に年単位の時間がかかるような難解な数学の応用が必要であった。そういった様々な困難に直面しながらも自身のアイデアを探求し続け、その成果は美しい一行の数式として具現化した。

 これだけの独創的天才であるにも関わらず興味深いことに、膨張する宇宙を認めず宇宙項を導入したり、光電効果の理論によって自らもその創始のきっかけとなった量子力学の確率論的世界観については「神はサイコロを振らない」と言って生涯受け入れなかった、という面もある。とはいえ、長い間物理学の基礎として正しいとされてきたものの綻びが見えてきていたニュートン力学を修正してマクスウェルの電磁気学と統合、空間と時間の概念を根底から変革し、その後の宇宙論の発展の基礎となった相対性理論は、1人の人間が成し遂げた成果としては驚くべき偉業であり、現在までもその影響は計り知れない。

 よって、ここではアインシュタインを天才の第三条件に当てはまる人物として定める事にする。

天才の第一条件に該当する人物:アルベルト・アインシュタイン

アインシュタインの下頭頂小葉(イメージ操作に関わる脳の部位)は通常より発達していたとされており、アメリカのフィラデルフィアのムター博物館でアインシュタインの脳の一部を見る事ができる

 ここまで、天才の三条件に当てはまる人物(ノイマン、ガロア、アインシュタイン)を紹介してきたが、では、その中で誰を本当の天才と呼ぶことが出来るだろうか。私的な解釈になってはしまうが、私はその3人の中でエヴァリスト・ガロアを真の天才に選びたいと思う。

 理由としては、天才の第一条件や第三条件に該当する者は地球の歴史上数多存在してきたが、天才の第二条件「努力の中に狂気を宿した者」は、憶測ではあるものの、そこまで数多くはないと考えているからだ。また、天才の条件とは何か?(中編)でも書いたように、ガロアは読破するまで2年かかるとされるルジャンドルの書いた数学教材『幾何学の基礎』をたったの2日間で読了し、その後、現代数学の礎となるガロア理論までも打ち立てた。この先天的資質と実績はいずれも天才の第一条件と第三条件に当てはまるものである。

 以上、前編・中編・後編の3編に渡って述べてきた天才の条件に該当する真の天才は、エヴァリスト・ガロアとして、本エッセイを終わりにする。

エヴァリスト・ガロア


あとがき

 昔から「『天才』と『努力家』に違いがあるのか?」というのを常々疑問に思っていて、「もしそこに本質的な違いがあるとすれば、それは一体何なのか…?」というのが非常に気になってました。
 なので今回のテーマ「天才の条件とは何か?」は、昔から思っていた自分の疑問を私なりの解釈としてまとめておきたい…そう思ったのでエッセイとしてまとめてみました。

 記事を執筆するにあたって、天才の3条件とその条件に該当する人物を誰にするのかかなり悩みました。例えば、先天的素質に焦点を当てた人物なら、独学で数学を学び32歳という短い生涯ながら3254個の数学の公式を発見したインドの大天才・ラマヌジャンや天文学の分野において和算で世界の頂点に上り詰めた関孝和、狂気を宿した人物なら、晩年に精神疾患を患いながらも数学に矛盾がない事を証明できないとする「不完全性定理」や「神の存在証明」を提唱したクルド・ゲーデル、偉大な業績を残した人物なら”プリンキピア”を著して数学と科学、そして地球と宇宙が連動している事を証明したニュートン、さらに芸術や音楽の世界にまで幅を広げればきりがありません。その為、最終的に個人の思想に偏って3人の人物を決めたことにはどうかご容赦いただければと思ってます。

 最後に、天才の第3条件に該当する人物を執筆するにあたっては、友人Y.Tさんにその文章の大部分を手伝ってもらいました。本当に感謝です!!

参考文献

Carlo Rovelli, カルロ ロヴェッリ(2017) 『すごい物理学講義』 (竹内 薫, 栗原 俊秀 訳) 河出書房新社

Lillian R.Lieber, リリアン・R・リーバー(2012) 『数学は相対論を語る』 (水谷 淳 訳) SBクリエイティブ

Albert Einstein, アルバート アインシュタイン(2012) 『特殊および一般相対性理論について』 (金子 務 訳) 白揚社

ロバート・P・クリース(2010) 『世界でもっとも美しい10の物理方程式』 (吉田 三知世 訳) 日経BP社

ゲーザ サモシ, G´eza Szamosi(2010) 『時間と空間の誕生―蛙からアインシュタインへ』 (松浦 俊輔 訳) 青土社

デイヴィッド リンドリー, David Lindley(2007) 『そして世界に不確定性がもたらされた―ハイゼンベルクの物理学革命』 (阪本 芳久 訳) 早川書房