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世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?

これまでのような「分析」「論理」「理性」に軸足をおいた経営、いわば「サイエンス重視の意思決定」では、今日のように複雑で不安定な世界においてビジネスの舵取りをすることはできない――「直感」と「感性」の時代――組織開発・リーダー育成を専門とするコーン・フェリー・ヘイグループのパートナーによる、複雑化・不安定化したビジネス社会で勝つための画期的論考!
(著者:山口周)


 「直感、芸術、感覚、etc…。これら感性に近しいものはビジネスにおいて有用でありうるのか?」と言われると、その回答に困る方は多いだろう。なぜなら、そうした要素は抽象的かつ曖昧で、論理的な説明が非常に難しいと思われるからだ。その為、倫理や理性に頼った意思決定こそ大切である、というのが世間一般の主流な考え方だと思っている。しかし、多くの人が分析的・論理的な情報処理のスキルを身につけるという事は「他人と同じ正解を出す」ということでもあり、それは必然的に「差別化の消失」を招く原因になりかねない、と著者は指摘する。

 本書は、そんな「正解のコモディティ化」が飽和状態に達した今だからこそ、美意識による役割の重要性を唱えている。

 例えば、

・システムの変化に法律の整備が追いつかないという現在のような状況だからこそ、明文化された法律だけを拠り所にせず、自分なりの「真・善・美」の感覚(美意識)に照らして判断する態度

・論理や理性で考えてもシロクロのつかない問題については、「直感」を頼りにした方が良く、結果的にそちらの方が大きな業績の向上につながっている事実

・マツダのデザインがグローバル市場において尊敬を勝ち取ったのは、「顧客に好まれるデザイン」ではなく「顧客を魅了するデザイン」という思考アプローチ

など

 また、「美意識」における科学的研究成果としても、2001年にエール大学の研究者グループは、アートを見ることによって観察力が向上することを証明しており、「米国医師会報」には、医大生に対して、アートを用いた視覚トレーニングを実施したところ、皮膚科の疾病に関する診断能力が56%も向上したと報告している。

 さらに、ミシガン州立大学の研究チームでは、ノーベル賞受賞者、ロイヤルアカデミーの科学者、ナショナルソサエティの科学者、一般科学者、一般人の五つのグループに対して、「絵画や楽器演奏等の芸術的趣味の有無」について調査したところ、ノーベル賞受賞者のグループは、他のグループと比較した場合、際立って「芸術的趣味を持っている確率が高い」ことが明らかとなっている。これは、一般人と比較した場合、2.8倍も芸術的趣味を保有している確率が高いという結果である。

 このように見ると、確かにアートや芸術といった「美意識」は、ロジックが煮詰まり情報の移り変わりが激しい現代において見直されるべき価値ではないか、と感じるのは私だけではないだろう。ビジネスにおける「感性」の必要性を、論理的に突き詰めたい方におすすめです!