LIFE ACADEMIC

NOVEL

わたしを離さないで

優秀な介護人キャシー・Hは「提供者」と呼ばれる人々の世話をしている。生まれ育った施設ヘールシャムの親友トミーやルースも提供者だった。キャシーは施設での奇妙な日々に思いをめぐらす。図画工作に力を入れた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちのぎこちない態度…。彼女の回想はヘールシャムの残酷な真実を明かしていく―全読書人の魂を揺さぶる、ブッカー賞作家の新たなる代表作。(著者:カズオ・イシグロ)

 本作は、臓器提供をする為にクローン人間として生まれ、その生涯を終える者たちの物語。この本の著者であるカズオ・イシグロ氏と言えば、2017年にノーベル文学賞を受賞し、さらに”日の名残り”でブッカー賞を受賞した事で有名だが、”わたしを離さないで”も、日の名残りに勝るとも劣らず、読む者を引きつける。

 ストーリーの前半では、ヘールシャムという全寮制の学校で、主人公・キャシーと友人・ルースとトミーを中心に、学校での何気ない生活が展開されていく。そして後半では、思春期として自我が芽生え、”生きたい”と切に願う彼らの心情がストーリー全体を通してとても繊細に表現されている。こうした姿を見ると、クローンとして生まれた者たちのその何気ない動作や仕草が心に深く突き刺さる。そして、クローンであろうとなかろうと、そこには何ら優劣はなく、只々生きるという行為自体が非常に尊いものであり、その運命の悪戯に思わず涙してしまう。また、2018年11月、中国でゲノム編集をした双子の赤ちゃんが誕生し世界で大きな話題となったが、この小説でのストーリーは、既に現実で起こりうるであろう話として認識しておかなければならないとも感じてしまった。

 ”生きる”という命の価値について考えたい方に、是非お勧めしたい本です。