NOVEL
舟を編む
出版社の営業部員・馬締光也は、言葉への鋭いセンスを買われ、辞書編集部に引き抜かれた。新しい辞書『大渡海』の完成に向け、彼と編集部の面々の長い長い旅が始まる。定年間近のベテラン編集者。日本語研究に人生を捧げる老学者。辞書作りに情熱を持ち始める同僚たち。そして馬締がついに出会った運命の女性。不器用な人々の思いが胸を打つ本屋大賞受賞作!(著者:三浦しをん)
電子辞書が巷に溢れる今日この頃、紙の辞書を使う人は昔に比べ、めっきり減ってしまったと思う。「舟を編む」という小説は、そんな巷に溢れる電子辞書作り…ではなく、紙の辞書作りに情熱を傾けた者たちのストーリーだ。
本書を読む前、私は「辞書を作るって、言葉の意味を丁寧に記載していくだけなのでは?」と思っていた。しかし、その作業には用例確認(その言葉が使われている文献を明記し、使用例を具体的に引用して示した部分)をする為、20人以上のアルバイトが徹夜で確認作業を行ったり、ありきたりな言葉でも、その語源や背景を理解する為に熱く真剣に議論を交わしていたりと、予想の斜上をいく展開が待ち受けている。さらに、紙の辞書に触れた時のあの質感や捲り易さを実現する為に、並々ならぬ努力が注がれている場面は特に印象的であった。
口下手で人見知りだけど、言葉へのセンスは一流の主人公・馬締、料理人で美しく、後に馬締の妻となる香具矢、チャラいけど頼りになる男・西岡といった個性は揃いの登場人物たちも、この物語をさらに引き立てる。
辞書という言葉の世界を泳いでみたい方は、是非一読してみてはいかがだろうか。