LIFE ACADEMIC

NOVEL

アルジャーノンに花束を

32歳で幼児の知能しかないパン屋の店員チャーリイは、ある日、ネズミのアルジャーノンと同じ画期的な脳外科手術を受ければ頭がよくなると告げられる。手術を受けたチャーリイは、超天才に変貌していくが……人生のさまざまな問題と喜怒哀楽を繊細に描き、全世界が涙した現代の聖書。
(Amazon内容紹介)

本書は1959年に発表され、映画・ドラマ化もされた書籍である。生まれながらにして障害を抱えていたチャーリイは32歳で世界初の脳外科手術を受け、そこから数ヶ月でIQ68からIQ185の天才へと変貌する。しかし、その過程で過去の自分が両親や周りからいじめられていた経験を思い出し、さらに感情のコントロールが急激な知能の上昇に追い付かず苦しみ、最終的に彼の知能は退行してしまう。

そんなチャーリーの軌跡を描いた物語であるが、本作品ではチャーリーが『経過報告書』という形式を取り自筆でストーリーを展開していく。例えば、冒頭では以下のような文言から話が進んでいく。

けえかほおこく1――3がつ3日  ストラウスはかせわぼくが考えたことや思いだしたことやこれからぼくのまわりでおこたことわぜんぶかいておきなさいといった。なぜだかわからないけれどもそれわ大せつなことでそれでぼくが使えるかどうかわかるのだそうです。ぼくを使てくれればいいとおもうなぜかというとキニアン先生があのひとたちわぼくのあたまをよくしてくれるかもしれないといたからです。

これは、チャーリーの知的水準が幼子である時に書いた文章である。そして、その文章は彼の知能レベルが高まるにつれ高まっていく。

経過報告10  四月二十一日――ぼくはパン屋の粉ねり機の生産性をスピードアップする新方式を考案した。労賃を節約して利潤が増すとドナーさんはいっている。五十ドルのボーナスをくれ週十ドルも昇給してくれた。ジョウ・カープとフランク・ライリイを昼食に連れ出してお祝いしたかったがジョウは奥さんに買物を頼まれているしフランクはいとこと食事をする約束があるという。彼らがぼくの変化に慣れるには時間がかかるだろう。

こうした文体の変化に伴うチャーリーの成長は、まるで読者に実体験をストーリーにしたかのような臨場感を醸し出す。その一方、このあまりにリアルな描写から、過去の壮絶ないじめ体験について本人から語られる為、読んでいて苦しくなる事がある。しかし、だからこそ、本書を読んでいて気付かされるテーマの重要性(敢えて言えば相互理解)が心に染み渡るのだろう。是非この小説をより多くの方に読んでいただければと思う。