LIFE ACADEMIC

ESSAY

「タイムパラドクス」と「パラレルワールド」

 舞台は2010年夏の秋葉原。
中二病から抜け出せない大学生である岡部倫太郎は、「未来ガジェット研究所」を立ち上げ、用途不明の発明品を日々生み出していた。
だが、ある日、偶然にも過去へとメールが送れる「タイムマシン」を作り出す。
 世紀の発明とその興奮を抑えきれずに、興味本位で過去への干渉を繰り返す。
その結果、世界を巻き込む大きな悲劇が、岡部たちに訪れることになるのだが…
 悲劇を回避するために、岡部の孤独な戦いが始まる。
果たして彼は、運命を乗り越えることができるのか!?

    冒頭で紹介した文章は、「シュタインズゲート」というTVアニメの紹介を抜粋してきたものだが、実は私、結構なサブカルチャー好きで、アニメやマンガといった類のものを見たり集めたりするのが趣味であり、先ほど紹介したアニメは、今年の4月に放送された「シュタインズゲート 0」というアニメの前作にあたるストーリー紹介だ。そしてこのアニメ、実はタイムリープを話の軸に物語が展開されていくのだが、その世界観は驚くほど見事に表現されている。

『TVアニメ:STEINS;GATE』今年の4月から続編『STEINS;GATE 0』が放送された

    タイムリープとは、簡単に言えば時間跳躍のことで、人が瞬間的に過去や未来を行き来することを意味するが、イメージとしては『時をかける少女』の主人公(紺野真琴)が過去へ戻る時に使った能力を思い出してもらえれば分かりやすいだろう。

    過去に戻れる!…それはなんとも甘美で心地の良い言葉だが、勿論、シュタインズゲートで頻繁にやり取りされるタイムリープはあくまで設定上の話であり、常識的に考えてみても、私たちの住んでる世界にそんな技術があるわけがない(だろう)(注1)。

    だが、その「常識的に考えてみて」という常識を疑い、「過去に戻れる!」という夢をあきらめずに追い求めると、思わぬ発見が見えてくる(まさにLife Academic! )。

    タイムリープから少し話が逸れてしまうが、皆さん「パラレルワールド」という言葉を聞いたことはあるだろうか。パラレルワールドとは、その名前の通り並行世界のことで、簡単にいうなら「IFの世界だ」。

    例えば、あなたは明日開催予定のとあるイベントを見つけて興味を持って申し込みをしたとしよう。しかし、当日になってやっぱり行くのが面倒になり、そのイベントに参加するのを止めたとする。この時、あなたはイベントに参加するという選択肢もあったわけで、もし参加していたら、将来のパートナーとの出会いや、今後の人生を大きく変える出来事があったかもしれないが、この「もしも」という私たちの世界と同時進行する条件分岐した世界が「パラレルワールド」という世界になる。

    こんな話を急にされても、パラレルワールドはタイムリープ同様に、何とも受け入れがたい話に聞こえてしまうかもしれないが、これについては、実際にパラレルワールドから私たちの世界にタイムトラベルしてきたとされる人物(ジョンタイター)の面白い逸話がある(多分知ってる人が結構いるかも)。

    ジョンタイターとは、2000年にインターネット上に突如現れ、2036年からやってきたタイムトラベラーを自称するなんとも中二病全開の男性の名前なのだが、実はこの男、ネット上で言い残したさまざまな予言が妙に的を射ていて大変話題になった人物である(らしい)(注2)。

    例えば、イラク戦争、狂牛病(BSE)、ペルー地震、…これらの事象は2000年当時にタイターが今後未来で起こるであろう出来事を言い残したものだが、いずれの予言もその後の時系列を追ってみると、見事にその予言を的中させている。

    また、タイターはネット上に自分が乗ってきたというタイムマシンの設計図を残していったが、その設計図は科学者を納得させる程の出来栄えで、さらに、タイターはこの時代に立ち寄った理由として、IBM5100というコンピュータの入手を目的としていたそうなのだが、その後、IBM5100にはIBM社のごく一部の者しか知り得ない機密情報が内臓されていたことが、元IBM社エンジニアのボブ・ダブック氏の証言で明らかとなっている。

タイターが残していったタイムマシンの設計図
(画像出典:tocana.jp)

    こうした事実と証言があると、確かにパラレルワールドの存在への信憑性は高まるが、実際にこれだけジョン・タイターに纏わる情報があるにも関わらず、彼の存在を示す有力な手がかりは残っていない(注3)。さらにタイターの予言によると、2005年にアメリカで内戦、2008年北京オリンピックの中止、2015年アメリカとロシアの間で第3次世界大戦が勃発するなど予言していたが、2018年現在、そのような出来事が全く起きていないことがわかるだろう(注3)。

ちなみにこちらの画像はタイターが予言した2020年の日本地図らしい
(画像出典:www.daytradenet.com)

    また、タイターが乗ってきたというタイムマシンを現代科学の知見に照らし合わせ作るとなると、エキゾチック物質(負のエネルギー)の生成・衝突器で作り上げた10兆度のエネルギーをさらにプランク温度まで押し上げ一点に集中させる・差分岐器で時間差を作るなど、我々の想像を遥かに超えた途方もない難題をいくつもクリアしなければならない(注4)。

    こうしたことを踏まえ、再度タイターの証言を考えると、彼がタイムマシンを使い2036年からやってきたという話は何とも信憑性に欠ける話だと感じてしまうが、どうやらパラレルワールドの存在にだけに話を絞って考えると、事の様子はだいぶまた変わってくる。

    この謎を解明する手がかりとして、エルヴィン・シュレーディンガーは「シュレディンガーのネコ」という思考実験を提唱したが、この実験は以下のようなものである。

画像出典:Wikipedia

Erwin Schrödinger

・オーストリア出身の理論物理学者(1887 – 1961)
・1926年に量子力学の基本方程式にあたる「波動力学」を発表
・1933年、量子力学における業績が認められ、イギリスの理論物理学者ポール・ディラックと共にノーベル物理学賞を受賞

 まず、外から中が見えない箱の中に1匹のネコを入れ、その中に、放射性物質と放射性検出器、そして放射線検出器と連動した毒ガス発生装置も入れておく。放射線検出器は放射線を検出すると、毒ガスが発生して箱の中のネコが死んでしまう仕組みになっているが、放射性物質がいつ放射線を出すかはわかっておらず、唯一わかるのは、この放射性物質は10分間の間に50%の確率で放射線を出すことだけである。その状態で、その箱の中にいるネコは生きているか死んでいるか予想するわけだが、この実験が「シュレディンガーのネコ」と呼ばれるものである。

    この思考実験、常識的に考えれば、ネコの生死は箱の中を覗くまで、生きているか死んでいるか分からないはずだが、量子論を使ってこの思考実験を検証すると、実に謎めいた主張が出てくる。それは、ネコの生死は観測者が確認するまで、生きている状態と死んでいる状態が重なり合っている状態、つまり、どちらの状態でもあると考え、箱の中を確認した瞬間に、はじめて猫の生死が確定するという主張なのだ。

    この対象物(今回の場合ネコ)を観測するまで物質の状態は確定していない、もしくは観測前の状態を考えるのは無意味であるとする解釈は、「標準的な解釈」あるいは「コペンハーゲン解釈」と呼ばれており、「観測」が行われた時点で、複数の状態が重なり合っていた(重ね合わせ状態だった)ものが一つに決まることは「(状態の)収縮」と呼ばれている。

 しかし、実際にいつ、観測が行われたとみなすのかは曖昧で、シュレディンガーの猫の思考実験でいえば、放射線が出てから観測者に猫の生死が認識されるまでのどの時点で観測が行われたかはっきりしておらず、収縮が起きる仕組みも不明で明確な説明はされていない。また、標準的な解釈では、収縮が起きる為に外部の観測者による観測が必要となるが、現在、宇宙の「外」は存在しないと考えられている為、量子論の考え方を宇宙全体に当てはめようとすると、外部の観測者が必要となる標準的な解釈は適用できないことになる。

    そこで、収縮という概念を使わずに、量子論の不思議な現象を説明しようとする考え方の一つが「多世界解釈(いわゆるパラレルワールド)」というものだ。これは、標準的な解釈では、箱の中を確認した結果、猫が生きていたら観測結果とは異なる状態(つまり猫が死んでいた状態)は消え失せたと考えるが、多世界解釈では、元の世界が「猫が生きていた世界」と「猫が死んでいた世界」に別れてしまうという考え方だ。先程の例でいえば、猫の生死の可能性は生と死の二つだけだが、可能性が1000個あれば、世界は1000に分岐するということになる(注5)。また、収縮の概念を必要としない多世界解釈は、量子宇宙にもとづく宇宙論や量子情報科学の研究と”相性”がよいため、現在支持を広げている(2018, 福田)。

    こうした科学的アプローチを調べると、確かに「なるほど」と思う一方、私のようなその道の精通者でない者にしてみれば、彼ら専門家が言っている事は想像の遥か上を越えていて、いくらパラレルワールドの実在性について説明されても「わけわからん」というのが本音だろう。

    だが、夢想家の私にとっては、正直タイムパラドクスやパラレルワールドの有無はそこまで重要なファクターではなく、もしかしたらそんな世界が存在するかもしれない、という可能性に想像を膨らませるだけで、何とも楽しく爽快な気分になってしまう。その理由は、ジュール・ヴェルヌの言葉を借りていうのなら、まさに「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」という言葉に夢と期待を寄せているからだろう。

    あとがき

    今回、テーマである『「シュタインズゲート」と「パラレルワールド」』を掲載するにあたって、ジョン・タイターについていろいろと書きましたが、そもそも彼が本当に実在していたかどうかは不明であり、タイムマシンや未来の予言など真偽の程は定かではないので、私的解釈も含めてここでは書いています。

ですので、タイターの話に関しては、話半分程度に読んで頂ければと思います。ちなみに、タイターについての元ネタは、主にネットに上がっているいくつかの記事と、実際にネット上でタイターと行われたやり取りについてまとめられた文献を参考にしました(下記参考資料参照)。

また、今回量子論については、科学雑誌『Newton』を参考にしましたが、他にも量子論の解釈として下記のような解釈も示されていたので、もし興味があればご覧ください(科学雑誌『Newton2018年4月号』 p.50 参考)

標準的な解釈ー複数の量子的な状態の重ね合わせが、観測によって一つに収縮する。観測することによって、波が粒子に変化するとも言える

多世界解釈ー収縮は起こらず、量子的に取りうる可能性の数だけ、世界は無数に枝分かれしていく

かくれた変数の理論ー量子力学は不完全であり、自然界にはこれを補う「かくれた変数」が存在する

GRW理論ーコペンハーゲン解釈に収縮のメカニズムを追加した理論

多精神解釈ー可能性の数だけ世界(宇宙)全体か枝分かれする代わりに、観測者の心の中で世界の枝分かれが起きる解釈

時間対称化された解釈ー未来はすでに決まっており、未来が原因となって(未来が現在に影響を及ぼして)現在の状態が決まるという解釈


注1-    「常識的に考えてみても、現実世界にそんな技術があるわけない(だろう)」のだろうに()をつけましたが、もし現在誰かがタイムリープしているのであれば、私たちが気づかないうちに今の記憶は取り消されているので、その意味では、タイムリープの技術は現実世界に存在しない、と決めつけるのはおかしいので、一応だろうに()をつけました。

注2-     ジョン・タイターの詳細については知りたい方は、ネットで彼の名前をググれば簡単に引っかかります。 そして以下、タイターに纏わる話については、ネットと文献(下記参考資料参照)をもとに書いています。
    また、シュタインズゲートでは、ジョン・タイターを実際に存在する本物の人物として登場させてるので、シュタゲをこれから見る人は要注目です。

注3-    タイターの目撃者として、彼は未来に帰る前に実の両親と会ったとされていますが、彼ら夫妻は平穏な生活を送りたいとの理由からタイターとの関係を断ち切っており、これらの経緯については、弁護士を通じて明らかとなっているそうです。
    また、これらタイターの外れたは予言に対して、彼は、私たちの世界でこうした出来事が発生しない可能性についても触れており、それは自分の住んでいる世界とこちらの世界とでは世界線にズレ(いわゆるパラレルワールドの条件分岐?)があるからとしているらしい。

注4-    タイムマシンの作り方については、参考図書である『タイムマシンのつくりかた(草思社)』を参考に書きました。

注5-    ここでいう「世界」とは、全宇宙のことで、観測対象や観測者のみならず、世界に存在する全ての人や物が異なる世界(並行世界、パラレルワールド)に枝分かれする。なお、標準的な解釈では、世界は一つしかないと考えられているそうです。

参考資料

ポール・デイヴィス著,林一訳 (2011) 『タイムマシンのつくりかた』 草思社文庫

福田伊佐央(2018) 「”半死半生”のネコは実在するか?」,『Newton』,3月号

福田伊佐央(2018) 「パラレルワールドは実在するか?」,『Newton』,4月号

ジョン・タイター(2006) 「未来人ジョン・タイターの大予言」 マックス