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史上最強の哲学入門

真理に殉じた最強の論客ソクラテス、近代哲学の偉大なる父デカルト、神を殺した狂気の超人ニーチェ…強者の論を踏み台に、さらなる強者が出現する。そう、哲学の歴史はまさに闘い!!偉大なる哲学者たちが繰り広げてきた、頭脳と頭脳の闘いの歴史を、驚異的な噛み砕き方でわかりやすく紹介。最強の哲学入門書、降臨!!(著者:飲茶)

 
 哲学といえば、生きるとは何か、死とは何か、存在とは何か、といった抽象的な問いを考察していく学問だが、哲学者の考えを知るとなると、超人思想・脱構築・構造主義といった専門用語が立ち並び、理解するのが難しい。だが、本書では「史上最強の哲学入門」とタイトルにあるように、各哲学者(西洋)の思想や造語を大変分かりやすく紹介しているので、挫折する事はないだろう。

 ここでは、本書の中で印象に残った哲学者を二人紹介してみたい。

 一人目は、デモクリトスである。デモクリトスは、原子(アトム)論を唱えた人物だが、彼がその論を完成させたのは、何と紀元前400年頃である。当時、哲学者のパルメニデスは「リンゴをどんなに分割し続けても、リンゴの破片はどんどん小さくなるだけで、決してなくならない」と考えていたが、デモクリトスはその思考をさらに推し進め、「延々と分割し続けていけば、最後にはそれ以上絶対に分割できない粒、『究極の存在』に辿り着くはずだ」と考えた。そして、デモクリトスはその「究極の存在(絶対に分割できない粒)」に「原子」という名前を与え、その原子が「空虚(空間)」を飛び回り、他の原子と「結合」したり「分離」したりすることで世界ができ上がっているのだという、今までにない画期的な存在理論、原子論をつくり上げたのである。

 もう一人は、トマス・アクィナスという哲学と宗教を統合させた神学者である。当時、アリストテレスの哲学的な体系がキリスト教に流れ込み、神学の価値体系が脅かされていた。それを表す一つとして、アリストテレス研究の第一人者であるアヴェロスが取り組んだとされる「全能のパラドックス」と呼ばれる命題がある。これは、”全能の神は、自ら全能であることをやめて、全能ではない存在になることができるか?”という命題で、神が自分自身を全能でなくすることができないならば、神は全能ではなくなり、もし全能でないのなら、その時点で全能ではない存在となってしまう」というパラドックスである。要するに、全能とはそもそもありえないという話である。こうした論理的な主張をもとに、神学の真理が哲学の真理に崩されかけていたが、そこで一矢報いたのが、トマス・アクィナスである。彼は、哲学の論理的な手続きを逆手に取り、こう考えた。

「では、一番最初の原因とは一体何だろうか?」


 現代なら、ビッグバンと答えるかもしれないが「では、ビッグバンの原因は何か?」と最初の原因を繰り返し突き詰めて行くと、無限に原因の問いかけが続く事となる。つまるところ、「原因と結果という関係を超越した何か」を想定しないことには、この問題は決して解くことができない。よって、理性的に考えていくことで理性を超えた存在──神の存在が導かれてしまうのである。このようにトマス・アクィナスは、理性では計り知れない階層(レベル)の問題については、もはや信仰でしか辿り着くことができない、つまり、神学と哲学の真理は対立するのではなく「レベルが違う」という考え方をしたのである。

 本書では、その他にも、ニーチェ・サルトル・レヴィ=ストロース・ソシュールといった有名な哲学者が、計31名紹介されている。西洋の哲学者の思想に触れてみたい方にオススメです。