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2019.06.19
日の名残り
品格ある執事の道を追求し続けてきたスティーブンスは、短い旅に出た。美しい田園風景の道すがら様々な思い出がよぎる。長年仕えたダーリントン卿への敬慕、執事の鑑だった亡父、女中頭への淡い想い、二つの大戦の間に邸内で催された重要な外交会議の数々―過ぎ去りし思い出は、輝きを増して胸のなかで生き続ける。失われつつある伝統的な英国を描いて世界中で大きな感動を呼んだ英国最高の文学賞、ブッカー賞受賞作。(著者:カズオ・イシグロ) 2017年、ノーベル文学賞を受賞した作家・カズオ・イシグロの小説。彼の著書には「忘れられた巨人」「わたしを離さないで」など数多の名著がある。しかしその中でも、私が一番印象に残っている作…
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2019.05.06
残像に口紅を
「あ」が消えると、「愛」も「あなた」もなくなった。ひとつ、またひとつと言葉が失われてゆく世界で、執筆し、飲食し、交情する小説家。筒井康隆、究極の実験的長篇。(筆者:筒井 康隆) 「あ」という音が消えると「愛」「明日」「雨」という言葉が失われ、「い」という音が消えると「石」「貝」「挨拶」という言葉が失われる。作家の佐治勝夫は友人であり評論家の津田得治から言葉の消えた虚構世界を執筆するように持ちかけられる。しかしそれは、佐治勝夫自身が存在する現実世界が舞台である。音が消えていく世界では、その言葉に纏わる「モノ」が消えていき、佐治自身の記憶からも消えて行く。 その為、虚構世界をテーマにした本小…
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2018.10.01
コンビニ人間
36歳未婚女性、古倉恵子。大学卒業後も就職せず、コンビニのバイトは18年目。これまで彼氏なし。オープン当初からスマイルマート日色駅前店で働き続け、変わりゆくメンバーを見送りながら、店長は8人目だ。 日々食べるのはコンビニ食、夢の中でもコンビニのレジを打ち、清潔なコンビニの風景と「いらっしゃいませ!」の掛け声が、毎日の安らかな眠りをもたらしてくれる。仕事も家庭もある同窓生たちからどんなに不思議がられても、完璧なマニュアルの存在するコンビニこそが、私を世界の正常な「部品」にしてくれる――。ある日、婚活目的の新入り男性、白羽がやってきて、そんなコンビニ的生き方は「恥ずかしくないのか」とつき…
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2018.08.28
砂漠
入学した大学で出会った5人の男女。ボウリング、合コン、麻雀、通り魔犯との遭遇、捨てられた犬の救出、超能力対決……。共に経験した出来事や事件が、互いの絆を深め、それぞれを成長させてゆく。自らの未熟さに悩み、過剰さを持て余し、それでも何かを求めて手探りで先へ進もうとする青春時代。二度とない季節の光と闇をパンクロックのビートにのせて描く、爽快感溢れる長編小説。(著者:伊坂幸太郎) 冒頭の「内容紹介」にもあるように、「砂漠」は大学時代をテーマに話が展開していく青春小説だ。 チャラくてやんちゃな鳥井、超能力が使える南、めちゃくちゃ美人な東堂、いつでもまじ…